なにこれハレンチ!なんて思ってしまうようなR15指定の映画『ドン・ジョン』。特に冒頭部分はポルノ映像のオンパレードで、拒絶反応を示してしまう人もいることでしょう。でも、そこで観るのをストップしてはもったいない。これは男女がパートナーに理想像を求めすぎるが故に起こるマスターベーション的な恋愛観を見事に描いている深~い作品なのです。

夢見る男はポルノに、夢見る女は恋愛映画にはまる

これを読んでいる女性のみなさん、恋愛映画好きですか?私は大好きです。彼氏や旦那さんは一緒に恋愛映画を楽しんでくれますか?うちの旦那はいつも微妙そうな顔をしています。

これを読んでいる男性のみなさん、エロい動画好きですか?私は大学時代彼氏と一緒に観ていました。彼女や奥さんは一緒にエロい動画を楽しんでくれますか?え?観ていることは秘密ですか…

そう、この映画の主人公ジョンは大のポルノ好き。毎日ナンパに繰り出しては、女の子をお持ち帰りする彼のあだ名は口説きの首領(ドン)からとって『Don Jon(ドンジョン)』。女性が惚れるのはもちろん、男性も憧れるようなマッチョでイケメン、口説き上手な男性です。

彼にとって大事なのは「家族 教会 仲間 女たち ポルノ」。そう、女に不自由しない毎日を送っていながら、女性とのセックスに満足できずポルノにハマっているジョン。女性といたした後も、物足りなさに駆られて、女性が寝ている横でポルノを観ては自慰をする。

彼曰く「ポルノに敵う女はいない」だそうで。

なにそれ…いやなんですけど…

という非難の声が女性陣から聞こえてきそうですが、ある意味ジョンの嗜好ははっきりしていて清々しい。「男とはこんなもんだ!世の女性よ、現実を見ろ!」と言われているようでもあります。まあ、私も男性がAVを観ることに否定的ではないにしても、できれば自分との行為の後には遠慮してもらいたいかな。

でも、ジョンの魅力は、そんな自分の行為を隠すことなく教会で「今週のセックスは〇回、ポルノで自慰したのは〇回」としっかり懺悔するところ。うん、セックスより自慰の回数が明らかに多いんだけどね。牧師さんに「では、〇回祈りをささげなさい」と言われたら、素直にそれに従う。マッチョでエロいのに、どこか可愛らしく思えてくるのが不思議。う~ん、ジョンの場合、エロいという言葉が似合わないんだよな。本能的というか、野性的というか…うん、私の語彙力では表現が難しいですね。

そう、ポルノの中には男の夢が詰まっているのです。

理想的なおっぱいに、おしり、太もも、女性にこんなプレイをしてほしい…などなど。ジョンも、そんな理想の女性を求めてはクラブでナンパを繰り返すのですが、なかなか理想のセックスにはありつけない。

では女性からみたらどうでしょう?

女性の大多数は男性がAVを観ることに否定的というか、どこか嫌悪感を抱くというか、そんなパッケージを見つけたら、触るのも汚らわしいといった感じで指でつまみながら、「なんでこんなの見てんのよ!」なんて言い出すイメージがある。

つまり、女性からすると男性がそこまでしてポルノを観る理由が理解できない。いや、分からないわけではない。女性だってそういうものを観ることがあるでしょう。でも、明らかに女性向けポルノと男性向けポルノは違うんですよね。男性向けは女性の体や行為自体が強調されているのに対し、女性向けはセックスに至るまでの雰囲気やストーリー性が重要視されている。

そう、女性は自分を大事にしてくれる男性や、ときめく言葉を言ってくれる男性を求めているんです。だからセックス自体ではなく、そこまでのストーリーが大事。女性が恋愛映画にハマるのは、そこに理想の王子様がいるから。

そう、恋愛映画には女性の夢が詰まっているんです。

これ、男性からするとあまり理解できないらしいですね。だから、恋愛映画はあまり観ないという男性が多い。うちの旦那もSFとかアクション系を好みます。

つまり、男と女の理想は違うんです。男は「恋愛映画が好き」という女の気持ちはわからないし、女は「ポルノの女が最高!」という男の気持ちがわからない。で、そんなこと言っている異性を、お互いがどう思っているかといったら、男は「そんな王子様みたいな男いるわけないだろ」で、女は「そんなポルノみたいなセックスする女いるわけないだろ」なんですよね。

バーチャルではなく心で人と繋がるということ

結局、男が求めるポルノ的な美女に出会える確率は皆無に近く、女が求める王子様的な美男子に出会える確率も皆無に近いわけです。ははは、なんて残酷な世界でしょう。

ではそのギャップをどうやって埋めるのか?バーチャル(2次元)ですね。

で、そこにハマるとどうなるか?理想的なものだけ見ているわけだから、抜け出せなくなる。現実のものでは満足できなくなるんです。結果、リアルに恋人ができても、なんだか物足りない。

この映画の場合、それがポルノとして描かれているけど、これってアニメや恋愛映画、エロゲー、アイドルにも言えることであって、さらに言うと、ネット依存やSNS依存も似たようなところがありますよね。バーチャルにハマり過ぎると、現実で満足できなくなってくる。

映画『ドン・ジョン』の主人公ジョンも、ある日自分が求める理想の女性(美人でエロい体のバーバラ)に出会い、めずらしく長期間交際するんですが、やはり少しずつかみ合わなくなってくるんです。だって、ジョンはバーバラに性的な関心しかないし、バーバラはジョンに理想の男性像(ポルノは見ない、マッチョ、良い仕事につく、部屋で一緒に恋愛映画をみてくれる)を押し付けようとしてるんですからね。バーバラの期待に応えようと、夜間学校に通い始めるジョンは健気ともいえます。セックスしたいからという動機は不純ですが。

結局、お互いに理想像しか投影していない2人の関係は少しずつ無理が出てくる。そう、心がつながっていないですからね。ネタバレになりそうなので、控えますが、この映画の良いところは単に『男女の相違』という点で終わらないところ。

それまで、単なるスポーツにしか見えなかったセックスシーンがラストで大きくガラリと変わります。これは、女性である私も共感してしまいました。単なる快楽としての行為ではなく、人との繋がりがあってこそのセックスが描かれます。もはや、ポルノの世界とは別物だけど、相手に埋没するという快感を知ることになるジョン。そこにはもう、ポルノ依存症のジョンの姿はありません。

スタイリッシュなエロスと軽快なテンポ

ポルノ映像やセックスシーンが多い映画ですが、ポップな音楽にのせて流れるスタイリッシュなポルノ映像はそこまでいやらしさを感じさせません。なんといっても、ジョンがパソコンを起動する音「ジャーン」が鳴ると、「あ、エロシーンくるな」と分かる。

ポルノ観る→ナンパする→セックスする→ポルノ観る→協会に行く→懺悔する→ジムに行く→夜間学校に行く

というお決まりの流れの中で、少しずつストーリーが進み、ジョンの変化がみられます。こうして流れで書いてみると、「なんだこれ」という笑いがこみあげてきますが、その軽快なテンポのおかげで単なるエロい映画ではなく、男女の関わりにおける本質を見事に描いている深~い映画となっています。

なかでも、私が印象に残っているシーンがあります。ジョンが彼女と別れた時に友達が「浮気でもしたのか?」と聞くと、ジョンが「ポルノ観ているのがばれた」と答えるのですが、その友達の返した言葉が「え?まじで?そんなことで?」という内容だったのです。

この一言が、男女の考え方の違いというものを明確に示していて、ストンと腑に落ちたのです。

ふと、いつか聞いた「おっぱいには夢と希望が詰まっている」という言葉が頭をよぎりました(どこで聞いたかは忘れたけど…)。うん、男と女は別の生き物だよね。